バレエ評論家の前甸明俊様に、発表会の総評を書いていただきました。

温かいお言葉に感謝し、励みにして、頑張りましょう!

前甸様、この度は誠にありがとうございました。

 

<橋本陽子エコールドゥ バレエ>2024年発表会に参観して

 

8月12日セシオン杉並ホールで行われた発表会を鑑賞、どのような会であったか思うままに書いた。

2022年に創立55周年の記念公演を開催した歴史のあるスタジオである。

今回の公演でも、長きにわたり多くの優れたダンサー、指導者らを輩出してきたその高度な育成の継続と成果を見せた。以下、敬称は省略します。

ゲストはこれまでにも招かれている檜山和久(谷桃子バレエ団)、海田一成(東京バレエ団)、山仁尚(東京バレエ団)。振付・指導:小泉真由美、橋本佳歩、ヴァリエーション指導補佐:橋本悠香。

今回は出演者の日頃の成果の発揮を、観る側には一点集中しやすい少数の出演者によるプログラム構成で、じっくり一人一人の演技を見ることが出来た。

◆第1部▶1.「雲」=振付:橋本佳歩。橋本佳歩は斬新な振付で作品を創作し、評価は高く、注目されている。

舞台は薄暗く、黒い固まりのようなものが間を開けて九つある。蹲るようにしていたものが各々異なる動きや同じ動作を始め、そこへ憂いと愁いのどちらもあるような男(海田一成)が登場する。9人は男を阻止するように迅速かつ緩慢な動きなどをするが、それは男の思考を表現し、思い惑う気持をこの舞踊手に雲として変幻な動きに重ねた。己の思考と心の動きは表裏一体、掴みどころなく刻々と変化するもまた、天・晴天の様相を呈する。振付者の視点の深さが、変幻すると一喜一憂する心情の変化に被せて表現したところにある。

最後に一人を抱き上げた情景は、感情を納得した変化を表したように思えた。

熱のこもった音楽に乗り、隙の無い9人のきびきびした動きが表現を重厚にした。その中に、重い課題のようなものが蠢いていたが、海田がそれを伝え、総じて秀逸な作品となった。

▶ 2.「コッペリア」第3幕よりフランツのヴァリエーション=颯爽と登場したのは、中等クラスの草野駿。大舞台での主役のように堂々と踊ったのは、日頃の練習の成果である。爽やかに見せ、好演した。

▶ 3.「サタネラ」より男性ヴァリエーション=中等クラスの木全柚樹が出演。安定性を克服しながら、きれいな表現で錬磨の成果を輝かせた。

▶ 4「パキータ」よりヴァリエーション=中等クラスの大角若葉が、安定感のある踊りで精彩を放った。巧みな表現も豊かであった。

▶ 5.「ドン・キホーテ」第3幕より=森仁美が華やかさを見せ、この役らしい雰囲気を醸し、踊りでも技術の確かさがあった。檜山和久は安定した動きに加え、受け身でもベテランらしく演じた。共に回転も巧くまとめるなどして好演。廣瀬裕子、石井凛奈には踊ることと表現に確かさがあり、伸びやかな動きで大きな表現を見せて秀逸であった。

◆第2部▶ 1.「パリの喜び」=振付:小泉真由美。オッフェンバックの楽曲から編曲・構成したこの作品は、華やかである一方、一人の男の悲哀を感じさせる物語である。豪華な舞台を見せ、個性豊かな登場者で全幕上演は極めて少ないのが残念である。単独に上演されるのは、最も華麗で賑やかな女性らの踊りの場である。そのカフェでの一部分を小泉が、何とも可愛らしい舞台に変貌して仕立てあげた。出演はエンゼルクラスと児童Cクラス。

オープニングとコーダは全員で踊った。各ヴァリエーションがまだ幼い子供が作り出してしまうような動きで、思わずにんまりしてしまう。音楽をよく聞き、乱れの無い踊りは指導者の熱意も伝わってくる。少しばかりカンカン踊りを思わせるところもあるなど、楽しく見せた。

▶2.「眠れる森の美女」より花のワルツ=振付:橋本佳歩。出演は児童Bクラス。

花の飾りでの踊りは華やかさを加え、情景もめでたい場面。10人が並びを変えたりしながら軽やかに踊る。息を合わせて展開する表現には楽しい気分が満ちており、揃った動きで好演した。

▶3.「眠れる森の美女」より宝石の踊り=振付:橋本佳歩。出演は中等クラス。

祝賀の舞踏会で金の精などの宝石が登場して踊られる第3幕のパ・ド・カトル。優美さもあれば軽快さもある。それぞれが丁寧な表現の踊りで、表情豊かに見せ、好演した。

▶ 4.「白鳥の湖」第1幕よりパ・ド・トロワ=中等クラスの大角若葉、池田莉良、海田一成が演じた。大角、池田が自然な踊りをしなやかに見せた。そうした動きなどは、王子の安定した踊りが引き出しているように見え、二人が優美な表現で呼応し、秀逸な場を見せた。

▶ 5.「眠れる森の美女」第3幕よりオーロラ姫とデジレ王子のアダージョ=研究クラスの柴生田海佑が鮮やかな表現を見せた。一挙手一投足にそつがなく、それが自然な動きで見応えがあり、優美な音楽と合わさっていた。王子の檜山和久は熟練の味わいを見せ、整った動きは表現力も豊かであった。

▶6.「海賊」よりグラン・パ・ド・ドゥ

メドーラは研究クラスの尾原史佳。エキゾチックな魅力もある役である。爽やかにそれらを包み込んでの表現力は、指の先まで神経の行き届いた踊りで素晴らしいものがある。

アリの山仁尚は、男性踊手の見せ場を多くしたこの作品の見どころでもある跳躍など、充分にこなして楽しませた。両者にある回転にも盛大な拍手が送られ、全体的にも柔軟な表現力で観客を魅了した。

◆第3部▶ 1.「眠れる森の美女」第3幕よりフロリナ王女と青い鳥のアダージョ=高等クラスの森千鶴がフロリナで登場、青い鳥の山仁尚に支えられるなどしながら共に軽やかで爽やかな表現で好演した。緩急ぶれることなく、巧みな熟練の踊りで見応えがあった。

▶ 2.「アルルの女」=振付:小泉真由美。一般クラスの3人が各々特色ある動きをし、優雅でありながらどこか物悲しい表現で綴られている。劇中音楽「アルルの女」であれば、主人公の青年が結婚を望んで引き裂かれ、破滅する悲劇。その京愁漂ら優美な舞は祈りのようにも見え、振付者の優しさが浮き彫りになった美しい作品であった。それは舞踊手の巧みな表現力のたまものでもある。

▶ 3.「くるみ割り人形」よりキャンディボンボン=振付:小泉真由美。舞台は一変して可愛い児童7人が現れた。思わず微笑してしまう。踊りは揃っており、懸命さよりも楽しんでいるのが伝わってくる。日頃の成果をきちんと表現し、この子らも満足したに違いない。

▶4.「くるみ割り人形」より葦笛の踊り=振付:小泉真由美。こちらは児童5人の出演。表現しようとする思いが表れて、それが可愛い動きにもなり、同時に調和に反映されていくので面白い。そろりそろりと動く方が難しそうで均衡が崩れるが、楽しく踊る舞台を見せてくれた。

▶5.「ナポリ」=振付:橋本佳歩。舞台を広場とした左右に背景画の街並みが奥へと続いて、彼方に橋が見える。その辺りは港だろう。船が絡むこの恋愛物語は、デンマークの振付家ブルノンヴィルの創造力の全てを凝縮した最高傑作とも言われている。1842年に初演され、年月を経て時代に即した新しい解釈が加味されるなどし、原型が変わったところもある。今日では、少なくとも国内では全幕上演は殆ど行われていない。筆者の記憶にある全幕は1993年の本家バレエ団による来日公演である。殆どは第3幕のみかその一部分であるが、それも稀な上演である。せめて幻想的で美しい2幕と豪華な3幕を同時上演して欲しい。今回は、難破した恋愛中の二人が奇跡的にナポリに生還し、人々から祝福され、祭りのような賑わいの場が橋本佳歩の振付で上演された。

  • パ・ド・シス/中山咲来、森仁美、尾原史佳、柴生田海佑、石井凛奈、森千鶴の6人の踊りから始まる。軽妙なダンスを見せると、中等クラスの草野駿、木全柚樹、大角若葉、木全桃子、池田莉良が順に陽気な表情をしながら軽快に踊り、児童クラスはそれぞれ伸びやかながら乱れの無い柔軟な踊りを見せた。廣瀬裕子と高等クラスの谷口和夏が共に表現力のある整った踊りで巧みに見せた。中等クラスの長野愛莉、藤﨑亜子、岩﨑仁瑚が揺るぎない躍動を感じさせながら踊り、表現力のあるところを見せ、それぞれに好演した。
  • こうしてヴァリエーションが終わると、コーダのタランテアに入り、皆がタンブリンを打ち鳴らして拍子をとる中、一人ずつ踊って見せるなどした陽気で華やかな踊りの場面は、やがて全員で踊り出して終曲へ向かう。
  • かつてはタランテラが始まると、カスタネットの打ち鳴らしとともに熱狂した観客は手拍子で盛り上げたというが、今回の舞台もそれを彷彿とさせるに充分な楽しさを演出して見せ、終幕の演目にふさわしいものであった。
  • 終えてみれば、出演した幼い子供も含めて舞台で動じない踊りを溌刺と見せてくれた。幕前は緊張して日頃の成果に鈍りが出てしまうかと危惧したが、まったくそんなことは無かった。指導者らの育みには、そうした配慮もあるのだろうと思わずにはいられなかった。素晴らしい会であったことを報告して、筆を置く。